大判例

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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)1612号 判決

控訴人(反訴原告)

大倉こと龍岩

被控訴人(反訴被告)

細見耕平

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、金一二八万六二九九円及びこれに対する昭和五九年四月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三〇分し、その二九を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。この判決は、控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する昭和五九年四月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(当審において請求減縮)。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、それをここに引用する。

一  原判決の訂正、付加

1  原判決三枚目表三行目の「衝突した」の次に「(以下「本件事故」という。)」を、その九行目の「原告は、」の次に「本件事故により、」を各加え、同四枚目裏三行目の「別件事故」を「第二事故」に、同五枚目表二行目の「腰椎」を「腰痛」に、その四行目の「少くとも」を「少なくとも」に各改め、その七行目の冒頭から次行末尾までを次のように改める。

「野々口歯科医院 八六万五二六〇円

林、樫原診療所 一〇万九九〇〇円

シミズ病院 四万三七二五円

大島病院(昭和五五年九月二〇日までの分) 三六万四三一五円

(同月二一日から昭和六〇年三月一八日までの分) 六三万五四八〇円

以上合計金二〇一万八六八〇円

2  同七枚目表九行目末尾に続けて「よつて、その一部である三〇〇〇万円を請求する。」を加え、同八枚目表八行目の「填補額」から次行の「内金五三五九万五六五九円」までを「右損害金合計五五〇五万九六八〇円から後記被控訴人主張の弁済金合計二四三万三二〇〇円を控除した損害金五二六二万六四八〇円の内金二五〇〇万円」に改める。

3  同九枚目表九行目の「大幅な」を「三〇パーセント以上の」に改め、その末行の冒頭から同九枚目裏一行目末尾までを次のように改める。

「(一) 被控訴人は控訴人に対し、昭和五九年九月一七日金三〇万円を支払つた。

(二) 被控訴人は控訴人に対し、治療費として、昭和五九年四月二七日から同六〇年一一月二〇日までの間四回に計一三八万三二〇〇円を支払つた。

(三) 控訴人は昭和六〇年一〇月二六日自賠責保険から七五万円の支払を受けた。

以上弁済金合計二四三万三二〇〇円

4  同九枚目裏四行目の末尾に続けて、「なお、控訴人は、本件事故による損害金から右弁済金二四三万三二〇〇円を控除して本件請求をしている。」を加える。

二  控訴人の主張

1  控訴人の後遺障害の程度について

原判決は、「担当医師は、「神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される。」場合に該当すると判断する。」と認定判示しているが、これは誤りである。ちなみに、担当医師(大島嘉正)は、「神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない。」としているのである。

控訴人は、肉体労働は無理で、軽労働しかできず、左手では字を書いたりする仕事は短時間しかできず、バケツを持つとかいうこともできない。控訴人は、水道配管業という重労働一筋に数十年従事してきたが、もはや他職種への転換の途はほとんどない。

2  因果関係について

原判決は、「原告は、本件事故による受傷の治療継続中に、第二事故に遭遇し、本件事故による受傷が著しく増悪したと解するのが相当である。」と認定し、八五パーセントの減額をしているが、右は証拠に基づかない誤つた認定である。

(一) 原判決は、「原告の身体にそれほど強力な力が加えられたとは解し難い。」と認定するが、控訴人運転車両(原告車)は小型貨物自動車であるところ、大柄な控訴人が運転座席に座ると頭が天井すれすれになる上、その天井及び座席が固かつたので、衝突のシヨツクは普通乗用車の運転者が受けるのに比べてはるかに大きく、控訴人がスピードをあげて追い越そうとした矢先の事故のため身構える余裕もなく、控訴人は天井及び座席で頭部、頸部及び腰部を強打し、その衝突のシヨツクは控訴人の全身を直撃したものである。控訴人は、本件事故直後無理をして仕事現場に行つたが、身体が重かつたため途中で家に帰り、その夜食事を全部吐いた。なお、控訴人は、本件事故後、林、樫原診療所に通院しながら無理をして軽作業を行つていたが、これは、控訴人が日曜・祝日も休まず人一倍仕事一筋に生きてきたからである。

(二) 第二事故は、控訴人がバイクに乗つていて停止車両に右足膝と右肘を当てたもので、転倒もしておらず、受傷部位も本件事故によるものとは全く異なつており、本件事故による受傷とは何らの関係もない。なお、大島医師は、医学的にみて第二事故の影響はほとんど考えられない旨述べている。

3  原判決は、被控訴人主張の弁済金である野々口歯科の治療費八五万円(当審において八六万五二六〇円と訂正)を因果関係で減額した後に控除しているが、右損害は第二事故よりも前に発生したもので、因果関係が問題にならない時期の損害であるから、因果関係で減額した後に控除するのは誤りである。

三  被控訴人の主張

1  控訴人は、自賠責後遺障害別等級第六級相当の重い後遺障害が残存する旨主張するが、日常生活の起居動作にほとんど支障がなく、自由に自動車を運転しており、就労可能な状態である。大島医師の診断は控訴人の愁訴を妄信してなされたものというほかない。控訴人は、自賠責後遺障害別等級第一四級一〇号の認定を受けているから、労働能力の減退率は五パーセント、その期間は二年間と認めるのが相当である。

2  本件事故の衝撃は、控訴人が主張するほど強力なものではなく、控訴人の受傷は比較的短期間の加療により治ゆする程度のものであつた。ちなみに、控訴人は、当初受診した林、樫原診療所では軽傷として通院加療を受け、就労していたが、第二事故により受傷し、入院治療を受けることになつた。本件事故のみであれば事故後三か月程度の加療で済み、休業の必要もなかつた受傷が、第二事故により加重され、かつ、控訴人の心因症が加わつて、本件のような長期治療となつたものであつて、第二事故の日以後の治療、休業については相当因果関係がないものというべきである。

第三証拠関係

当事者双方の証拠は、原審及び当審訴訟記録中の各書証目録と証人等目録に記載のとおりであるから、それをここに引用する。

理由

一  事故の発生及び責任原因

控訴人主張の請求原因1(事故の発生)及び同2(被控訴人の責任原因)の各事実は、当事者間に争いがない。

そうすると、被控訴人は控訴人に対し、民法七〇九条に基づき、控訴人が本件事故によつて被つた損害を賠償する義務があるというべきである。

二  本件事故による控訴人の受傷及び治療経過

1  いずれも成立に争いのない甲第三、第四号証、第七、第八号証、第二二、第二三号証、第三一、第三三号証、乙第八、第九号証、第四六号証の一、二並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、本件事故により頸部捻挫、腰部挫傷、左上五番歯の歯牙脱臼の傷害を負い、本件事故の翌日である昭和五九年四月二日から同年五月二五日まで林、樫原診療所に、同年四月二日から同月二三日まで野々口歯科医院に通院してそれぞれ治療を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(控訴人が各通院治療を受けた事実は当事者間に争いがない。)。

2  控訴人が昭和五九年五月二五日第二事故に遭遇したことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第五、第六号証、第二七、第二八号証、第三五ないし第三七号証、乙第一〇号証、第一一号証の一、五、六、第一二号証、第一三号証の一、二、第二〇、第二三号証、第二六、第二七号証の各一、二、第二九号証、第四二、第四七号証の各一、二及び原審証人大島嘉正の証言並びに弁論の全趣旨によれば、

(一)  控訴人は、第二事故により右足膝と右肘を打撲し、右下肢打撲内側半月板損傷(疑)、右膝内側側副靱帯損傷(疑)、右上肢打撲及び肘部擦過創の病名のもとに、第二事故の当日である同年五月二五日から同年六月一〇日までシミズ病院に入院してその治療を受け、その間、本件事故による受傷部位である頸部及び腰部について外傷性頸部症候群及び腰部打撲の病名で五月二八日から六月九日まで同病院で治療を受けたこと、

(二)  さらに、控訴人は、右シミズ病院を退院した翌日である昭和五九年六月一一日から同年八月一三日まで大島病院に入院して、左上膊神経不全麻痺を伴う外傷性頭頸部症候群及び腰椎捻挫の病名で治療を受け、その後も昭和六〇年三月一八日まで同病院に通院してその治療を受け、同病院の担当医師は、同日、症状が固定したと診断し、当時における後遺障害としては、他覚的所見として左上下肢に軽い運動麻痺、頸椎について各方向に三五ないし四〇パーセント弱の運動制限、頸椎及び腰椎に骨棘、左上下肢に易疲労性、神経枝の障害、廃用性筋萎縮が認められ、自覚症状又は主訴として頭痛、頸痛及び腰痛、耳鳴り、左上肢に力が入らない、左下肢歩行時によくつまづく等の症状が存在する旨診断したこと、なお、自賠責保険では、自賠法施行令別表の後遺障害として第一四級一〇号と査定されたこと

が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  ところで、被控訴人は、控訴人の本件事故による軽微なむちうち症は第二事故により極度に増悪化し、かつ、控訴人の心因症が加わつて長期治療となつたのであるから、第二事故以後の治療及び休業については本件事故と相当因果関係がない旨主張し、控訴人は、第二事故の受傷部位と本件事故による受傷部位とは全く異なるから、第二事故は本件事故による受傷と何らの関係がない旨主張するので、この点について判断する。

前掲甲第三ないし第八号証、第二二、第二三号証、第二七、第二八号証、第三一、第三三号証、第三五ないし第三七号証、乙第八ないし第一〇号証、第一一号証の一、五、六、第一二号証、第一三号証の一、二、第二〇号証、第二三号証、第二六、第二七号証の各一、二、第二九号証、第四二、第四七号証の各一、二、成立に争いのない甲第一一ないし第一五号証、第二〇、第二一号証、第二六号証、第二九、第三〇号証、事故直後に控訴人が運転していた車両の状況を撮影した写真であることに争いのない検甲第一五ないし第一九号証、事故直後に被控訴人が運転していた車両の状況を撮影した写真であることに争いのない検甲第二〇ないし第二二号証、原審証人大島嘉正の証言(後記措信しない部分は除く。)、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。

1  まず、本件事故の態様は、控訴人(昭和一四年七月一二日生まれ)が原告車を運転して仕事現場に赴く途上、徐行していた被告車を追い越す態勢に入つたところ、被告車が右後方の安全を確認しないまま右折しようとして原告車の進路前方に急に出てきたため、危険を察知して急ブレーキをかけたが間に合わず、惰性で原告車の前部左角部分が被告車の右側前部ドアの軸回り付近に衝突し、そのまま被告車にやや食い込むようにして停車したものである。なお、本件事故により原告車の左前ボデー、バンパー、ドア部が凹損したが、その修理部品代は工賃を含めて約二九万円余であつた。

2  本件事故は、事故当日控訴人に何らの身体的異常もなかつたので、所轄警察署の係官によつていわゆる物件事故として処理されたが、翌日、控訴人が、野々口歯科医院において左上五番歯の歯牙脱臼により約一週間の通院加療を要する旨の診断を受け、続いて同日身体の異常を訴えて林、樫原診療所で診察を受け、頸部捻挫により同後二週間の通院加療を要する旨の診断を受け、その申告によりいわゆる人身事故に移行した。

3  林、樫原診療所における通院治療中の控訴人の症状は、自覚症状として頸痛、腰痛が認められたが、レントゲン所見では異常がなく、通院可能な状態でエアーサロンパス等による治療がなされ、経過も順調で、五月二五日までの実通院日数は三二日で、平均的な経過を辿れば、その後約二か月ないし三か月で治ゆないし症状固定すると見込まれていた。

4  控訴人は、昭和管工業に水道配管工として勤務する傍ら、大倉設備の名称で水道配管業を営んでいたが、本件事故後も五月二五日まで車両の運転をするなどしてできる範囲の仕事に従事していた。

5  昭和五九年五月四日夜、被控訴人宅において歯の治療費の支払等について話合いをした際、控訴人が被控訴人の態度が気にいらないとして台所から包丁を持ち出すなどの粗暴な所為に及んだため、被控訴人は、本件事故による損害について公正な判断を求めようと考え、同月二三日京都地方裁判所に債務不存在確認訴訟を提起し(控訴人方への訴状副本の送達は同月三〇日)、これに対して控訴人は同年一〇月一日本件反訴を提起したので、被控訴人は昭和六〇年三月二〇日右債務不存在確認の本訴を取り下げた。

6  次に第二事故は、本件事故による受傷の治療中である昭和五九年五月二五日に発生したものであるところ、控訴人は、午後一一時ころ、原動機付き自転車を運転して時速三〇ないし三五キロメートルで走行中、前方の障害物を回避しきれず、折から駐車中の乗用車の前部右角部分に自己の右足膝と右肘を当て、前記認定の右下肢打撲内側半月板損傷(疑)等の傷害を負つたもので、第二事故の直後、安静、精査のため車椅子でシミズ病院に入院し、翌日右膝靱帯にギブス固定(六月七日除去)の処置を受け、六月一〇日右負傷軽快により同病院を退院した。

7  控訴人は、右第二事故による受傷治療中である五月二八日に本件事故による受傷をシミズ病院の医師に話し、外傷性頸部症候群及び腰部打撲の病名で、マツサージ、湿布、牽引治療を受けたが、同病院の諸検査によるも顕著な他覚的所見は認められず、ただ、控訴人の愁訴は多く、また、入院中無断外出して西友ストアまで行つたり、六月八日には「退院してよその病院へ行く。」旨表明するなどしていたが、退院時における医師の所見は通院で良いということであつた。

8  シミズ病院を退院した翌日、控訴人は、大島病院において頸痛、腰痛及び右上肢のしびれ・痛みを訴えて診察を受けたところ、担当医師は、頸椎及び腰椎の運動制限や頸痛及び腰痛がいずれも強い上、左上肢の麻痺がみられるところから、約一か月の入院加療を要すると診断して、前記認定の外傷性頭頸部症候群(左上膊神経不全麻痺を伴う)等の病名で、即日控訴人を同病院に入院させ、水中運動訓練、マツサージ、牽引治療等を行つた。同年八月一三日には病状がある程度軽快し膠着状態になつたので、控訴人は、同日同病院を退院し、翌年三月一八日まで同病院に通院して治療を受け、同日症状固定と診断され、前記認定の後遺障害を残すことになつた。なお、担当医師は、控訴人の後遺障害の程度について、筋電図による裏付けのある左上下肢の運動麻痺により軽労働しかできない、すなわち神経系統に障害があり、左手の握力が低下しているので労務は相当制限され、力の要る仕事はできないと判断し、また、前記認定の頸椎及び腰椎の骨棘は年齢に因るものであり、筋萎縮も腕や足を使わないことに因るものであるとの所見を示している。

以上の各事実が認められ、原審証人大島嘉正の証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の本件事故の状況、本件事故直後には控訴人が身体的異常を全く訴えていなかつたこと、林、樫原診療所の控訴人に対する診療所見と治療経過、控訴人が本件事故後も第二事故に遭遇するまで水道配管業に従事していたこと及びシミズ病院と大島病院における本件事故による受傷部位に対する診察と治療が主として控訴人の主訴に基づくものであることなどに徴すると、本件事故による受傷である頸部捻挫及び腰部挫傷は、通常の経過を辿れば、比較的早期に回復し、その症状が固定したものと認めるのが相当であるところ、前記認定の第二事故の態様、第二事故による受傷の治療経過、第二事故後における本件事故による受傷の治療経過に徴すると、第二事故により、本件事故による受傷が相当増悪化したことも否定できないところである。

ところで、観念的には、本件事故(第一事故)による受傷が第二事故の受傷によつて増悪化したとしても、その増悪化した部分の責任を本件事故の加害者に帰せしめるのは相当でなく、同様に、本件事故による傷害が残存していたがために、第二事故による受傷が通常予想される程度よりも増大化した結果が生じたとしても、そのことは本件事故の加害者において通常予見することが困難であるから、右増大化した部分の責任を本件事故の加害者に帰せしめることも相当ではないというべきである。

しかしながら、本件証拠上、通常の経過を辿つた場合における本件事故による受傷の治療の程度及び治ゆないしは症状固定の時期を確定することは困難であり、また、本件事故による受傷に対する第二事故の影響度合を数値をもつて確定することも困難であるというほかない。さらに、頸椎捻挫あるいは外傷性頭頸部症候群と称されている病状については医学上今なお未解明の点が多く、被害者の主訴も多彩で個人差が非常に大きいこと(このことは顕著な事実である。)に照らすと、因果関係について不分明の部分の不利益を全部被害者である控訴人又は加害者である被控訴人の一方のみに負担させるのは、公平の理念に反し相当でないというべきであるから、本件のような場合には、前記認定判断、とくに控訴人の自覚症状がかなり心因的なものであること、控訴人の運動障害が第二事故による入院、控訴人の年齢及び職業上の原因によつて生じた疑いも否定できないこと等本件に顕われた一切の事情を勘案して、割合的な因果関係の下に損害の公平な分担を図るのが相当である。

以上の観点に立つて本件をみるに、結局、控訴人は、本件事故により頸椎捻挫及び腰部挫傷を負い、通常の経過を辿れば比較的早期に回復することが予想されていたところ、控訴人自身の責任によつて発生した第二事故に遭遇し、前記認定の入・通院治療の結果、昭和六〇年三月一八日に症状が固定し、その後遺障害を残すことになつたと認められるので、これらの事情を総合勘案すれば、第二事故後の控訴人の右病状による損害については、その五分の一が本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当というべきである。したがつて、控訴人及び被控訴人の前記各主張は、右の判断と抵触する限度でいずれも理由がなく、採用することができない。

四  そこで、本件事故による損害について判断する。

1  治療費

治療費として、野々口歯科医院分八六万五二六〇円、林、樫原診療所分一〇万九九〇〇円、シミズ病院分四万三七二五円、大島病院分九九万九七九五円を要したことは当事者間に争いがない。

2  入院雑費、通院交通費、休業損害、逸失利益、慰藉料についての認定判断は、次のとおり訂正するほかは、原判決理由三の2ないし6説示(原判決一四枚目裏四行目から同一六枚目裏一〇行目まで)のとおりであるから、それをここに引用する。

(一)  原判決一六枚目表七行目の「休業損害は、五三八万八九〇〇円」を「第二事故前における休業損害は一〇万五〇〇〇円、第二事故後のそれは五二八万三九〇〇円」に改める。

(二)  同一六枚目表末行の「「神経系統の」から同一六枚目裏一行目の「該当する」までを「神経系統に障害があり、左手の握力が低下しているので、労務は相当制限され、力の要る仕事はできない」に改める。

(三)  同一六枚目裏九行目から次行にかけての「慰藉料額は二五〇万円」を「第二事故前における慰藉料は金二〇万円、第二事故後におけるそれは金二三〇万円」に改める。

3  以上によれば、第二事故前における損害合計は一二八万〇一六〇円、第二事故後のそれは一一六九万六六九六円となるが、前記説示のとおり第二事故後の損害については、その五分の一が本件事故と相当因果関係を有するものと認められるから、本件事故による損害は金二三三万九三三九円と認めるのが相当である。したがつて、本件事故による控訴人の損害は合計金三六一万九四九九円となる。

4  過失相殺についての認定判断は、原判決理由三の8説示(原判決一七枚目表二行目からその五行目まで)のとおりであるから、それをここに引用する。

5  損害の填補

控訴人が被控訴人及び自賠責保険から合計金二四三万三二〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

そうすると、損害残額は一一八万六二九九円となる。

6  弁護士費用についての認定判断は、原判決理由三の11説示(原判決一七枚目裏七行目からその末行まで)のとおりであるから、それをここに引用する。

五  してみると、被控訴人は控訴人に対し、金一二八万六二九九円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和五九年四月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものといわなければならない。

六  以上によると、控訴人の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

よつて、右と結論を一部異にする原判決を変更することとし、控訴人の本訴請求を右の限度で認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 日野原昌 坂上弘 大谷種臣)

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